ASTER

ASTER(アスター / The Advanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection Radiometer)は、日米が連携して進めている地球観測プログラムです。14ものバンド(波長帯)を利用しています。1999年に打ち上げられて以降、順調に動作しています。

当研究室はASTERの幾何学的性能の向上に貢献し、ASTERのグローバル数値標高モデル(DEM)が全世界をカバーするに至りました。ASTERは2020年まで、ステレオ画像を撮影し続ける予定です。

ASTERによるグローバル数値標高モデル

さらに、地震前後の変位計測を用いて、大地震の原因となった断層を検出することに成功しました。近年、よりロバストな数値標高モデルを構築するために、航空機用の新しい装備が開発されています。画像レジストレーションやバンドル法で用いられる信号処理技術が、研究トピックとなっています。ASTERセンサーの詳細については、NASAのサイトをご覧ください。

2005年に発生した、パキスタンでの地震

1. Super-Radiometricへの挑戦

1-1. クロストーク現象

名古屋

概要

ASTERのSWIRセンサで観測される画像では、水域と陸域の境界付近に弱いゴーストが見られることがあります。バンド4への入射光が他のバンドに伝染しているのが原因です。

原因

ここで重要なのは、バンド4が1.6mm波長付近にあるので、バンド5-9に比べて帯幅が広いだけでなく、より強い反射を受けることです。これにより、バンド4の入射光反射率は他のバンドに比べて5倍ほどになっています。
ゴーストは、バンド4への強い入射光が干渉フィルタを通過し、感知器表面と回路表面、干渉フィルタとの境界付近で反射して、他バンドの感知器に到達することで発生すると考えられています。
SWIRセンサの場合、複数のバンドで同時に観測される範囲はひとつひとつ微妙に異なっており、地表の全く同じ点を同じ画像内座標で観測することはありません。これにより、ゴーストはトラック方向に移動します。

補正法

この問題はソフトウェアによって解決可能です。影響を受けたバンドの画像から、バンド4のトラック方向に移動されぼかされた画像を引くことで、ゴーストが軽減されるのです。
実際のソフトウェアでは、クロストーク画像は、振幅・xy両方向の分散をパラメタとする二次元ガウス分布によって処理されます。バンド5〜9の振幅は、バンド5から順に 9〜15, 3〜6, 2〜4, 3〜6, 9〜15%だと推定されています。

1-2. 迷光

概要

すべての光センサには、迷光という問題があります。センサへの入射光が光学部品の表面で反射し、迷光の原因になります。月探査で得られた画像をもとに、迷光のカーネルが決定されました。

原因

ASTER/VNIR/Band 3は、植生分析に用いられるNIRバンドです。月面の画像には、迷光の要素が3つ現れています。1つはオリジナル画像に近く、他の2つはオリジナルの画像とは異なるものです。レンズ内部での反射やダイクロイックミラーが迷光の原因として考えられます。

補正法

迷光によって生じる人工的な像は、月面画像から決定されたカーネルをもとに、実平面上で補正されます。反復的な補正が用いられます。

1-3. フィルターの傷

概要

フィルターの傷は、ASTER/SWIRセンサが抱えている問題です。ASTERのSWIRセンサは、干渉フィルタに傷があり、画像が部分的に劣化する原因になっています。ASTER/SWIRセンサでは、それぞれのバンドが焦点面上で並行に並べられており、特定の地表の点を観測する時間は、バンドによって異なります。特定の感知器のクロストラック位置が、地球自転の影響でバンドごとに異なるために、劣化部はバンド配分によってよりはっきりと現れます。感知器に設置されている干渉フィルタのかすかな傷が、このような像を生んでいます。

原因

この問題は、打ち上げ前に発覚していました。傷のついた部分だけ利得係数が高くなっており、フィルタ上の傷が入射光の後方散乱を引き起こし、その埋め合わせのためにより大きな利得が必要になっていることが分かりました。
この傷は前方散乱も引き起こし、影響を受けた部分の画像はわずかにぼけていました。

補正法

前方散乱は迷光の原因に鳴るため、フィルターの傷は迷光とよく似た問題です。迷光の振幅が感知器の数に依存するので、シフト不変な問題ではありません。よって、振幅を感知器の数の関数に設定し、迷光の幅がフィルタの傷のついた部分の中では一定であると仮定しました。
振幅は傷のついた部分の境界では0になり、この仮定によって生じる偏差は小さいと考えられます。

2. Super-Geometricへの挑戦

ASTERシステムは、可視光から熱赤外の領域まで、様々な波長の画像を取得し、3つのサブシステムから構成されています。可視光と近赤外線(VNIR)、短波赤外線(SQIR)、そして熱赤外線(TIR)です。

VNIRサブシステムは後方視望遠鏡を採用しています。地理位置・バンド間レジストレーション双方の観点から品質の高いデータを伝送するために、レベル1データ処理と呼ばれる基礎的なプログラムが、クロストラックポインティング関数を備えた4つの望遠鏡で得られた画像用に開発されています。この処理では、幾何学的検証法がまず記述されています。

続いて、ASTERデータの画像品質が、4年以上、幾何学的パフォーマンスの観点で評価されています。サブシステムでのバンド間レジストレーション精度は0.1ピクセル以上、サブシステム間のレジストレーション精度は0.2ピクセル以上です。これは、幾何学的データベースが正確に決定されていて、相互相関関数をもとにした画像マッチング法が実用レベルで効果を発揮していることを意味しています。